知って得する 法学あれこれ!!
−第3回−


はじめに


今回の「法学あれこれ」では,昨年の12月に施行された改正遺失物法を取扱いました。
明治32年に制定されて以来,社会情勢も大幅に変化し,拾得件数は増え続けるものの,ほとんど遺失者に返還されずにそのまま保管されているという状態になっています。
今回の改正では,遺失物の取扱いの合理化を図るとともに,国民に対するサービスの一掃の向上を図るという観点から行われました。


改正のポイント


1 拾得物の早期発見・返還のための手続の整備
2 社会・経済情勢の変化や物件の種類に応じた合理的な拾得物の取扱い
3 施設占有者の負担軽減
4 その他



1 拾得物の早期発見・返還のための手続の整備


(1) 拾得物に関する情報の通報・公表

改正法では,警視総監又は道府県警察本部長(以下「警察本部長」)は,当該都道府県警察の警察署長が公告をした物件が貴重な物件として国家公安委員会規則で定めるものであるときは,当該物件に関する事項を他の警察本部長に通報するものとする(改正法8条1項)とともに,警察本部長は,国家公安委員会規則で定めるところにより,当該都道府県警察の警察署長が公告をした物件及び他の警察本部長から通報を受けた物件に関する情報を,インターネット等を利用して公表するものとすることとされました(同条2項)。

〈理由〉
交通手段の発展に伴う国民の生活圏の拡大により,多くの国民が警察署の管轄区域はもとより都道府県警察の管轄区域を越えて頻繁に移動できるようになったため,遺失場所を管轄する警察署と拾得の届出を受けた警察署とが異なることや,遺失者自らも,どの警察署の管轄区域内で物件を遺失したかはっきりと記憶していないことが十分に想定されるからです。


(2) 公務所又は公私の団体に対する照会

改正法では,事業者等が警察署長の行う照会に応じて個人データを提供することが許されることを明確化するため,警察署長は,提出を受けた物件の遺失者への返還のため必要があるときは,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるとする規定が新たに設けられました(改正法12条)。
 なお,この警察署長の行う照会に対しては,回答義務があるものと解されます。

〈理由〉
拾得物の中には,携帯電話,キャッシュカード等のように,物件そのものからは遺失者の氏名,住所等は判明しないが,電気通信事業者,金融機関等当該物件に係る電気通信役務を提供している事業者又は当該物件を発行した事業者が,遺失者の氏名,住所等に関する情報を保有しているものがあり,これらの物件については,警察署長が事業者に照会すれば,容易に当該物件の遺失者の氏名,住所等に関する情報を得ることができるので,遺失者への返還率の向上が期待できるからです。



2 社会・経済情勢の変化や物件の種類に応じた合理的な拾得物の取扱い


(1) 拾得物の保管期間の短縮

拾得物の所有権が拾得者に移転するために要する期間(警察署長が拾得物を保管する期間)を6か月から3か月に短縮することとされました(改正法附則3条による民法240条の改正)。

〈理由〉
警察署長に差し出された物件のうち,最終的に遺失者に返還されたもののほとんどが,公告後3か月の時点でその遺失者が判明していることと,警察署長に差し出された拾得物のうち遺失者が判明しない物件が年々増加していることにより,結果として社会全体に大きな負担をもたらしているからです。


(2) 拾得物の売却等に関する規定の整備

拾得物の売却について
改正法では,傘,衣類,自転車その他の日常生活の用に供され,かつ,広く販売されている物であって政令で定めるものや,その保管に不相当な費用又は手数を要するものとして政令で定める物については,個別に物件の価格と保管に要する費用又は手数を算定することなく,公告の日から2週間以内に遺失者が判明しないときは,警察署長がこれを売却することができることとされました(改正法9条2項)。
 なお,上記以外の物件であっても,物件が滅失し,若しくは毀損するおそれがあるとき又はその保管に過大な費用若しくは手数を要するときは,警察署長は当該物件を売却することができることとされています(同条1項)。
 また,警察署長が物件を売却した場合には,その売却代金から売却に要した費用を控除した残額を当該物件とみなすこととし,遺失者等の権利利益の保護を図ることとされています(同条4項)。

〈理由〉
傘,衣類,自転車等の物件は,拾得物として大量に取り扱われ,かつ,その製造メーカーや型式等も様々であるがゆえに,警察署長が個別に物件の価格を算定し,その算定価格と物件の保管に要する費用又は手数とを比較して売却の可否を決定することは極めて煩雑であること,動物のような拾得物については,他の物件に比べてその保管(飼養)に費用や手数を要することが通常であるが,警察署長が個別の動物の価格を算定して売却の可否を決定することが困難であることを理由とします。


拾得物の廃棄その他の処分について
改正法では,警察署長が物件を売却することができなかった場合などには,廃棄のほかに「その他の処分」をすることができることとされました(改正法10条)。また,警察署長が廃棄その他の処分をすることができる要件について,「売却につき買受人がないとき」,「売却による代金の見込額が売却に要する費用の額に満たないと認められるとき」及び「法令の規定によりその所持が禁止されている物件又は個人情報関連物件に該当するときその他売却をすることができないと認められるとき」と具体的に規定することとされました(同条各号)。

〈理由〉
以前は,警察署長が執り得る措置として,「廃棄」のみが規定されていましたが,売却することができない物件であっても,動物のように「廃棄」することが適当でない物件や買受人はなくとも無償であれば再利用され得ると思われる物件もあるからです。


(3) 動物に関する取扱手続の明確化

改正法では,都道府県等において犬やねこを取り扱うこととした方が動物の愛護の観点から見て適切であることから,動物愛護法第35条第2項の規定による引取りの対象となった「所有者の判明しない犬又はねこ」については遺失物法の規定を適用しないことが明確にされました(改正法4条3項)。

〈理由〉
改正前の規定では,「逸走ノ家畜ニ関シテハ本法及民法第二百四十条ノ規定ヲ準用ス」ることとされていましたが(12条),警察署においては,動物の飼養や保管に関し専門的な知識を有する職員や専門の施設を有しておらず,拾得者から差し出しを受けた動物の十分な飼養が難しいという状態でした。他方で,動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」)においては,「所有者の判明しない犬又はねこ」について,都道府県等は,拾得者その他の者からその引取りを求められた場合には,これを引き取らなければならないことが規定されていますし(動物愛護法35条2項),また,都道府県等は動物の飼養及び保管に関して専門的な職員及び施設を有していることからこのようになりました。


(4) 拾得者への所有権の帰属の例外に関する規定の整備

改正法では,個人情報関連物件については,公告をした後3箇月以内に遺失者が判明しないときであっても,拾得者は所有権を取得することができないこととされました(改正法35条2号から5号)。

〈理由〉
個人情報関連物件は,そもそも所有者(名義人)以外の者が使用することが予定されていないものが大部分であるだけでなく,拾得者に所有権を取得させると犯罪に悪用されるおそれがありますし,近年,個人情報の取扱いをめぐる国民の意識が敏感になったことから,個人情報関連物件の取扱いについてより慎重な対応が求められているからです。



3 施設占有者の負担軽減


(1) 警察署長への提出義務の特例に関する規定の整備

改正法では,その施設を不特定かつ多数の者が利用する施設占有者のうち,拾得者から交付を受け,又は自ら拾得をする物件が多数に上り,かつ,これを適切に保管することができる者として政令で定める者に該当するもの(以下「特例施設占有者」)は,当該施設において拾得された物件(政令で定める高額な物件を除く。)を遺失者に返還することができない場合において,拾得者から交付を受け,又は自ら拾得した日から2週間以内に国家公安委員会規則で定めるところにより当該物件に関する事項を警察署長に届け出たときは,当該物件をそのものを警察署長に提出しないことができることとされました(改正法17条)。
 また,特例施設占有者は,警察署長と同様の要件の下に拾得物の売却等の処分を行うことができることとされました(改正法21条及び22条)。

〈理由〉
施設で拾得された物件のうち遺失者に返還できなかったものすべてを警察署長に差し出しさなければならないし,また,傘のように遺失者にほとんど返還されない拾得物については,施設占有者は,警察署長に差し出したものを6か月後に,ほとんどそのまま引き取っている現状にあり,こうした返還率の低い物件を施設と警察署との間でいたずらに往復させている制度は,社会的に見て効率的なものとは言い難いことを理由とします。


(2) 施設における拾得物の取扱手続の明確化

施設占有者の拾得者に対する書面交付
改正法では,拾得された物件の所有権を取得する拾得者の権利を保護するため,当該物件の交付を受けた施設占有者は,拾得者から請求があったときは,当該物件に関する事項を記載した書面を交付しなければならないこととされました(改正法14条)。

〈理由〉
施設において拾得された物件については,拾得者から当該施設の管理に当たる者を通じて当該施設占有者に交付された後,当該施設占有者が警察署長に提出することとされています。そして,物件の所有者が判明しなかった場合,拾得者は物件の所有権を取得して警察署長からこれを引き取ることとなりますが,このとき,拾得者は,警察署長に対して自らが真の拾得者であることを明らかにする必要があるからです。


不特定かつ多数の者が利用する施設における掲示
改正法では不特定かつ多数の者が利用する施設の占有者は,その施設の利用者の見やすい場所にその取り扱っている拾得物に関する事項を掲示しなければならないこととされました(改正法16条1項)。
 なお,当該掲示については,取り扱っている拾得物に関する事項を記載した書面を施設占有者が管理する場所に備え付け,かつ,これをいつでも関係者に自由に閲覧させることに代えることができることとされました(同条2項)。


〈理由〉
施設において物件を遺失した者は,まずその施設に赴き,当該物件が拾得されているか否かを確認することが多く,このため,施設占有者が当該施設において拾得された物件に関する事項を当該施設に掲示しておけば,遺失者は自己が遺失した物件が当該施設に保管されているか否かを一目で判別することができ,容易に遺失物を発見することが可能となるからです。



4 その他


(1) 拾得者及び遺失者の連絡先の告知

改正法では,そもそも報労金を受け取ることは,拾得者の権利であって,これを行使するか否かは,拾得者の判断に委ねるべきであることを踏まえ,警察署長は,拾得者から遺失者の氏名,住所等の告知を求められた場合には,当該拾得者が自らの氏名,住所等を遺失者に告知することに同意しているときに限り,遺失者の同意がなくても遺失者の氏名,住所等の告知をすることができることとされました(改正法11条2項)。また,警察署長は,遺失者から拾得者の氏名,住所等の告知を求められた場合には,拾得者の同意がある場合に限り,拾得者の氏名,住所等の告知をすることができることとされました(同条3項)。

〈理由〉
遺失者は,物件の返還を受ける場合,拾得者に対して報労金を支払わなければならないこととされていますが(改正法28条1項),この報労金の授受に当たっては,遺失者と拾得者の双方が連絡を取り合わねばならず,そのためには,互いの氏名,住所等を知る必要があります。しかし,昨今,国民の間で,行政機関における個人情報の取扱いに関する関心が高まっており,警察署長が拾得者又は遺失者の氏名,住所等を告知することができる場合について一定のルールを定める必要があったからです。


参考文献

○2008年版 注解受験六法
○2006年 月刊警察時報11月号 〜「遺失物法の改正について」参照〜
(以上,弊社発行)